No.003猫と生きる人

地域猫のTNRが繋いだ縁。むたさんと保護猫ゆきくんの暮らし

クッションの上で体を丸めて眠る、白いゆきくんの全身
むたさん提供:体を丸めて眠るゆきくん
外で暮らす猫のために、自分にもできることはあるだろうか。むたさんは近所の猫との出会いをきっかけに、団体と協力して初めてTNRに取り組みました。その際の迷いや工夫、そして団体との縁で迎えたゆきくんとの暮らしを聞きました。

お話を聞いた人

むたさん

お住まい
神奈川県
一緒に暮らす猫
2匹(いずれも保護猫)

初めてのTNRは、身近な猫との出会いから

むたさんはTNRボランティアとしても活動されているそうですね。初めてTNRをしたのは、どのようなきっかけだったのですか。

僕の住む家の周りには猫ちゃんが結構いるのですが、どんな子がいるかは全部把握していました。ところが、ある時、全然知らない猫ちゃんが、急に現れました。 そしてその子の耳には、さくらカットがありませんでした。

そこで、このまま地域で猫が増え続けるのも良くないなと思って、団体さんに「こんな猫ちゃんがいるんですけど」と相談したんです。それまでTNRのことは知っていても、自分でやったことはありませんでした。団体さんに協力してもらいながら、初めてTNRをしました。

今お話に出た「TNR」とは、どのようなことをするのでしょうか。初めて聞く方にも教えていただけますか。

猫ちゃんを捕獲(Trap)して、不妊去勢手術(Neuter)を受けさせ、元いた地域へ戻す(Return)ことです。それぞれの頭文字を取って、TNRといいます。これ以上猫ちゃんが増え続けないようにしながら、今いる猫ちゃんたちが、その地域で暮らしていけるようにするのが目標です。

団体と協力して進めた、猫の捕獲と手術

先ほど団体に相談してとのことでしたが、どのように相談先を見つけましたか。

地域にいた猫ちゃんたちは、みんなさくらカットだったんです。それで、この猫ちゃんたちのTNRをしたのはどの団体さんだろうと調べて、見つけました。

相談するときは、どのようなことを伝えたのですか。

捕獲機を貸していただけたら、出来るだけのことは自分でもやってみます、とお伝えしました。そうしたら、団体さんもぜひお願いしますという感じで、快く協力してもらえたんです。

さらに捕獲機を借りに行くと、よければ使ってくださいと、ごはんやおやつも少しいただきました。

窓辺にいる2匹の猫が、庭の収納箱の上でくつろぐ猫を見つめる様子
むたさん提供:ゆきくんを迎えた後、見知らぬ猫が近所にやってくるようになり、決まった時間にくつろぎにきている様子

手術などの費用も気になるところですが、むたさんの場合はどうでしたか。

僕の場合、自己負担はありませんでした。 手術代は市の助成が使えたそうです。

手続きは、僕も正直よく分からなかったのですが、「病院で団体名を伝えれば大丈夫なようにしてあります」と言われました。病院とのやり取りは、団体さんがしてくれました。

TNRをする中で大変だったことはありますか。

猫ちゃんによっては、なかなか捕獲機に入ってくれないことです。

僕の場合は、家の周りに来る猫ちゃんに数日前からごはんをあげ、決まった時間に食べに来るようになってから、捕獲機の中へごはんを置きました。

警戒心の強い子には、捕獲機を置く場所や時間を変えたり、匂いの強いごはんやおやつを使ったりしました。工夫を重ねて、やっと入ってくれたという感じです。

捕獲したあとの流れを教えてください。

僕が経験したオス猫の場合は、夜に捕獲して、その晩は自宅の捕獲機の中で過ごしてもらいました。翌朝に病院へ連れていって手術を受け、夕方に引き取りました。

TNRは可哀想? 手術を終えて感じたこと

TNRには「可哀想」という声もあります。むたさんは、どう感じましたか。

確かに、捕獲するときにびっくりしている姿を見ていると、ちょっと可哀想だなと思いました。

元の場所へ戻したときも、捕獲機からすごい勢いで逃げていって。そのあと、しばらく顔を見なかったんですね。これでよかったのかなと思いましたし、捕獲したことに、ちょっとショックもありました。

でも、忘れたころにまた戻ってきて、そこからは穏やかに暮らしていたんです。

外の猫ちゃんが増えていくことには、どのような心配がありますか。

外の猫ちゃんたちは、毎日ごはんを食べられるか分からないし、病気の心配もあります。うちで引き受けた猫ちゃんにも、病気だったり、弱っていたりした子がいました。過酷な環境で暮らしていると感じます。

また、周りに住む人への影響もあります。 うちの庭でも、糞をされたり、植えた花を荒らされたりするんです。僕は猫を飼っているから仕方ないと思えますが、飼っていない人からすると、たまったもんじゃないと思います。実際、近隣にも困っている方がいます。

だから、TNRでこれ以上増えないようにして、今いる猫ちゃんたちが地域で暮らしていけるようにしたいんです。可哀想だと感じることはありますが、何もしないまま増え続けるよりは、TNRをして今いる猫ちゃんたちを見守っていくほうがいいのかなと思っています。

捕獲機に入った猫を、窓越しに見守る家の猫たち
むたさん提供:後日のTNRで、捕獲した猫を見守る家の猫たち

団体との縁で、ゆきくんをお迎え

ゆきくんを迎えた経緯も、聞かせてください。

もともとは、最初にTNRをした猫ちゃんを、うちに迎えられないかなと考えていたんです。穏やかで人懐っこい子で、ほかの猫ちゃんから仲間外れにされて、いじめられているようなところも見ていたので。

ただ、うちにはすでに猫が1匹いました。外で育った猫ちゃんにはその子の生活があることや、病気を持っている可能性など、調べるといろいろ考えることがあって。

そんな中で、TNRでお世話になった団体さんが、保護した子猫の引き受け先を探していたんです。それで迎えることになったのが、ゆきでした。

家に来たばかりの頃、ケージの中でこちらを見る白い子猫のゆきくん
むたさん提供:家に来たばかりの頃のゆきくん

先住猫との穏やかな暮らし

初めて家に来た日は、どのような様子でしたか。

ゆきは保護されてから、病院で1〜2か月過ごしていました。うちに来たのは、推定生後3〜4か月くらいです。

家に来ても、びっくりしている様子はなくて、最初はケージの中にいたんですけど、すぐに出してほしいという感じでした。

先住猫と上手くいくか心配でしたが、先住猫のほうからすぐに近づいて、お母さん役みたいになってくれたんです。 ゆきは爪とぎも知らないようでしたが、先住猫をお手本に、一緒にやりながら覚えていきました。

キジトラの先住猫に毛づくろいをしてもらう、子猫の頃のゆきくん
むたさん提供:先住猫に毛づくろいをしてもらうゆきくん
キジトラの先住猫と寄り添って眠る、白いゆきくん
むたさん提供:先住猫と寄り添うゆきくん(右)

普段、家ではどのように過ごしていますか。

ゆきは家の中では自由にふるまっていますが、来客があると、すっと逃げて全然出てこない。家の中だけでは、リラックスしているような感じですね。

窓辺で仰向けになり、手足を伸ばして眠るゆきくん
むたさん提供:窓辺でへそ天をする、普段のゆきくん

迎えてから、印象に残っている出来事はありますか。

メスだと思って迎えたら、オスだったことです(笑) 何か月か経って、オス猫の特徴が出てきて、メスにしては少しおかしいなと思いました。もう一度病院へ行くと、獣医さんがオスでしたね、と。それが一番、インパクトが大きかったですね。

気をつけていることはありますか。

ゆきは、棚の中にごはんがあると分かると、自分で扉を開けようとします。以前、朝起きると、棚からふりかけやかつお節が引き出され、床一面に散らばっていたことがありました。先住猫や、以前一緒に暮らしていた猫にはなかった行動だったので驚きました。

今は猫用のごはんを別の部屋に保管し、人の食材が入った棚にもチャイルドロックを付けています。 子どもが小さい頃に使っていたものを、今度は猫のために使っています。

猫が棚を開けないよう、扉に取り付けたチャイルドロック
むたさん提供:猫用のごはんだけでなく、人の食材も守る棚のロック

ゆきくんのネコゴハン

ゆきくんは普段どのようなごはんを食べていますか。

普段は、ロイヤルカナンの室内猫用を食べています。家の中で健康に長く過ごしてほしいと思って選んでいて、猫たちも気に入り、飽きずに食べています。

おやつは、ちゅ〜るが大好きです。「おやつ」「いなば」「ちゅ〜る」といった言葉が分かるようで、聞くと「にゃー!」と喜んで近づいてきます。

ごはんの時間は、2匹でどのように過ごしていますか。

ゆきは家に来たときから、ごはんをあげたらすぐに食べてくれる子でした。今は2匹に一緒にごはんをあげると、我先に食べ終わって、もう1匹のごはんまで食べに行っちゃうんです(笑)。先住猫は優しいので、譲ってしまうんですよね。

優しいお兄ちゃんと、わがままな弟、という感じです。 相性がよかったのかもしれません。たまにじゃれ合って喧嘩をすることはありますけど、大体一緒に過ごしています。

幸せそうな猫を見ていると、人間も幸せになる

保護猫を迎えようか迷っている方へ、伝えたいことはありますか。

一緒に暮らすうえでは、責任も生じます。 何泊も家を空けることができなくなったり、常に家に猫がいることを考えて生活しなければならなかったり。大変さはあります。

でも、仕事から帰ってきたら出迎えてくれたり、夜、ごはんを食べ終わったらお腹の上に乗ってきたり。猫と一緒に生活することで得られる幸せもあるんです。

幸せそうな猫の姿を見ていると、こちらも幸せになりますし、一緒に暮らしていて、家族だなと思います。

少しでも多くの猫ちゃんが、ずっとのおうちと巡り会えるといいなと思っています。

むたさんの体の上でくつろぐ、赤い首輪のゆきくん
むたさん提供:むたさんの体の上でくつろぐゆきくん

編集後記

団体と一緒に出来ることを考える

保護猫団体のホームページやSNSで、「猫の引き取りや保護はしていません」という言葉を目にすることがあります。それは多くの場合、団体にも人的・金銭的な余力がなく、本当は対応したくても対応できないという意味だと、多数の保護団体を取材していて感じます。

一つでも多くの命を救うためには、むたさんのように、団体と一緒に「何ができるか」を考える姿勢が大切なのだと感じました。

捕獲や通院、費用の話は、むたさんが経験した一例です。実際にTNRを考える際は、地域の団体や自治体、受診先に確認してください。

この記事を書いた人

石佛晴奈

ネコリンク編集長/合同会社Enphoria代表

地域猫との出会いをきっかけに保護猫活動を知り、現在は自身も保護猫と暮らす。猫との暮らしを支えるスマホアプリ「ネコカルテ」「ネコゴハン」と、保護猫と人をつなぐメディア「ネコリンク」を運営。ネコリンクでは、自ら取材・執筆も行っている。

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